原状回復を知るRecovery

原状回復ガイドラインとはGuidelines

原状回復のガイドライン

賃貸解約精算時での原状回復をめぐるトラブルが急増したことを受け、平成10年3月国土交通省は原状回復に関する裁判例等を集約し原状回復に関する費用負担等のガイドラインを公表しました。その後も原状回復費用等の退去時のトラブルが減少しないため、平成16年2月、平成23年8月と原状回復ガイドラインの一層の具体化を進めたほか、原状回復のためのルールを普及させるために手順を明確化させるなどの内容を取り入れ、原状回復ガイドラインを再改訂しました。

ガイドラインとは、裁判所の考えに基づき、原状回復は賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用用を超えるような損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。

賃借人の善管注意義務

賃借人の善管注意義務

賃借人は、賃借物を善良な管理者としての注意を払って使用する義務を負っています(民法第400条)。
借り主は借りている部屋を、相当の注意を払って使用、管理しなければならないということです。

そのため、例えば結露のように、発生すること自体は仕方ない現象でも、それを放置して適切な手入れをしないがために、カビなどの被害を拡大させたという場合などは、賃借人は、善管注意義務違反によって損害を発生させたことになりますから、賃借人が原状回復義務を負い、その修繕費は賃借人が負担することになります。

「原状回復のガイドライン」にみる賃貸人・賃借人の負担区分Burden classification

賃貸人負担となるもの
通常の住まい方で
発生するもの
  • 家具の設置による床・カーペット、畳のへこみ、設置跡
  • テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ)
  • 壁に貼ったポスター等によるクロスの変色、日照など自然現象によるクロス・畳の変色、フローリングの色落ち
  • 賃借人所有のエアコン設置による壁のビス穴・跡
  • 下地ボードの張替えが不要である程度の画鋲・ピンの穴
  • 設備・機器の故障・使用不能(機器の寿命によるもの)
建物の構造により
発生するもの
  • 構造的な欠陥により発生した畳の変色、フローリングの色落ち、網入りガラスの亀裂
次の入居者確保の
行うもの
  • 特に破損等していないものの、次の入居者を確保するために行う畳の裏返し・表替え、網戸の交換、浴槽・風呂釜等の取替え、破損・紛失していない場合の鍵の取替え
  • フローリングのワックスがけ、台所・トイレの消毒、賃借人が通常の清掃を行っている場合の専門業者による全体のハウスクリーニング、エアコン内部の洗浄
賃借人負担となるもの
手入れを怠ったもの
用法違反
  • 飲みこぼし等の手入れ不足によるカーペットのシミ、冷蔵庫下のサビを放置した床の汚損、引越作業等で生じた引っかきキズ、賃借人の不注意によるフローリングの色落ち
不注意によるもの
  • 日常の清掃を怠ったため付着した台所のスス・油、結露を放置して拡大したカビ・シミ、クーラーからの水漏れを賃借人が放置して発生した壁等の腐食、喫煙によるヤニ等でクロスが変色したり臭いが付着している場合、重量物をかけるためにあけた壁等の釘穴・ビスで下地ボードの張替えが必要なもの、天井に直接付けた照明器具の跡、落書き等故意による毀損
通常の使用とは
いえないもの
  • ペットにより柱等にキズが生じ、または臭いが付着している場合
  • 風呂・トイレ等の水垢、カビ等、日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備の毀損、鍵の紛失または破損による取替え、戸建て住宅の庭に生い茂った雑草の除去

減価償却についてDepreciation

建物は経年変化と通常損耗により元の価値が減少していきます。これを「減価償却」と言います。
ガイドラインによると、減価償却される経年変化と通常損耗を超える部分について、原状回復の義務を負うのが一般原則となっています。

減価償却について

経過年数による減価償却 区分一覧表

フローリング 部分補修の場合、経過年数は考慮しない。 ただし、フローリング全体にわたっての毀損によりフローリング床全体を張り替えた場合は、建物の構造ごとに決まっている当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
6年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
カーペット 6年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
クッションフロア 6年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
壁紙(クロス) 6年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
建具、柱 経過年数は考慮しない。考慮する場合は、建物の構造ごとに決まっている当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
流し台 5年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
ガスレンジ 6年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
便器、洗面台 15年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
ユニットバス 建物の構造ごとに決まっている当該建物の耐用年数で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
エアコン 6年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
たんす、戸棚 8年で残存価値1円となるような直線を想定し、負担割合を算定する。
鍵の紛失 経過年数は考慮しない。
ハウスクリーニング ハウスクリーニングについては、経過年数は考慮しない。借主の負担となるのは、通常の清掃を実施していない場合で、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分を全額賃借人負担とする。

経過年数(入居年数)を考慮しないもの

建物本体と同様に長期間の使用に耐えられる部位であって、部分補修が可能な部位は、部分補修としたうえに形式的に経過年数を考慮すると、貸主にとっては不合理な結果となってしまいます。例えば、フローリング等の部分補修については、補修を部分的に行ったとしても、将来的には全体的に張替えるのが一般的であり、部分補修がなされたからといって、フローリング全体としての価値が高まったと評価できるものではありません。
したがって、こうした部位等については、経過年数を考慮せず、部分補修費用について毀損等を発生させた賃借人の負担とするのが妥当であると考えられています。(フローリング全体にわたっての毀損により全体を張り替えた場合は、経過年数を考慮します。)

また、襖紙や障子紙、畳表といったものは、消耗品としての性格が強く、毀損の軽重にかかわらず価値の減少が大きいため、減価償却資産の考え方を取り入れることにはなじまないことから、経過年数を考慮せず、張替え等の費用について毀損等を発生させた賃借人の負担とするのが妥当であると考えられています。
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